こんにちは。
ブランディングコンサルタントの堀田周郎(ほりたのりお)です。
最近、急成長を遂げてきたステーキ専門チェーン店・いきなり!ステーキのネガディブなニュースが続いています。
- ニューヨーク市内11店舗中7店舗の閉店
- 国内店舗の相次ぐ閉店
- 10月の既存店売上前年比41%減
- 12月期第3四半期の赤字計上
そんな中、店頭に張られた一瀬社長の直筆の「お願い文」がネット上で話題になっています。今回はいきなり!ステーキの事例からブランディングについて考えてみたいと思います。
「伝えたい」と「伝わらせたい」
今、話題になっている
直筆メッセージは以下の通りです
社長からのお願いでございます
従業員、皆元気よく笑顔でお迎えいたしますいきなりステーキは日本初の格安高級牛肉の厚切りステーキを気軽に召しあがれる食文化を発明、大繁盛させて頂きました 今では店舗の急拡大により、いつでも、どこでもいきなりステーキを食べることができるようになりました
しかし、お客様のご来店が減少しております このままではお近くの店を閉めることになります
従業員一同は明るく元気に頑張っております
お店も皆様のご希望にお応えしてほぼ全店を着席できるようにしました メニューも定量化150g、200gからでも注文できオーダーカットも選べます
創業者一瀬邦夫からのお願いです。ぜひ皆様のご来店を心よりお待ちしております
この文章が「上から目線だ!」と
ネット上で炎上しています。
本来は「頑張っているので、ぜひ食べに来てください」とお客さまに伝えたかったのだと思うのですが、この張り紙を見た人には「客が来ないなら、近くの店舗を閉めるぞ!」と高圧的なメッセージに伝わってしまったみたいです。
コミュニケーションは、自分の思いを一方的に「伝える」だけでは不十分です。相手にも思いが「伝わる」ことでその目的を果たすことができます。
しかし、いくら思いが伝わるように発言や行動をしても、どのように伝わるか? どの程度伝わるか? 情報の選択権は 100%受け手側にあります。
そこで 情報の送り手側は、受け手側に対して「伝えたい」ではなく「伝わらせたい」と思ってコミュニケーションすることが大切になってきます。今回のケースは、このメッセージを発信することで「受け手側がどのような感情を持つのか?」を想像する力が少し足りなかったようです。
また、SNSが発達した今、ブランディング成功の秘訣は「共感」の獲得と拡散にあるのですが、今回の文章はお店側の一方的な主張ばかりです。
- 私たちは新しいビジネスモデルを確立した
- しかし、客数が減少している
- このままだと近くの店を閉めるかもしれない
- 従業員は頑張っている
- 私たちは客の要望に応えてきた
これではお客さまの「共感を得る」ことはできません。
それどころか、今回のような反発や経営不振の現状がネット上で「拡散」する結果になってしまいます。
ブランディングとは、ターゲットの心の中に価値を刻み込むためのコミュニケーション活動です。ひとりよがりの情報発信では決してお客さまの共感を得ることはできません。
拡大はブランド価値を下げる
実は私は、以前に糖質制限ダイエットを行ってきた時期があったのでそれ以来、いきなり!ステーキはよく利用させてもらっています。ですから、この1年半位の変化は身をもって体験しています。
2018年4月。姫路駅前店ができた時は、物珍しさもあってどの時間帯に行っても店頭には長蛇の列ができていました。
当時は、店員さんに300g以上のお肉を強くお勧めされました。
女性や子供、お年寄りにはキツイだろうなぁ~と思う一方で、ガッツリとステーキを食べたい男性や筋トレマニア、糖質制限中の人などには十分に需要があるだろうなと感心させられました。
しかし、2018年5月の値上げから雲行きが怪しくなってきました。
行列はいつの間にかなくなり、空席がめだつようになってきました。
さすがにこれはまずいと思ったのか、ライスとスープ、サラダのセットを無料でつけたり、プリペイドカードの特典を増やしたり、リピーターにアルコールを含むドリンクが10円で飲める券を配ったりと色々と対策をとったのですが、その後客足が戻ることはありませんでした。
値上げによる客離れや、ライバル店の出現も苦戦の理由だと思いますが、経営不振の一番の原因は、6年弱で約500店舗まで店舗を急拡大したことにあると私は思っています。
これだけ拡大すると、これまでの絞り込まれた客層だけではまかないきることができず、女性層やファミリー層まで取り込まなければいけなくなってしまいます。また、ブランドの要素として大事な人材の確保や育成も追いつかなくなってしまいます。
ブランドの法則のひとつに「ブランド価値は拡大に反比例する」というのがありますが、いきなり!ステーキは店舗拡大と共にそれまで築き上げたブランドを失ってしまったようです。
これまでは70%~60%と言われる原価率の高さを客の回転率でカバーしてきましたが、これからはこのビジネスモデルを維持するのは難しいでしょう。
今後、どのような方法で新しいブランドイメージを作り上げていくのか?
しばらくは、お店に通いながら注目していきたいと思います。
追記:12月17日現在。いきなりステーキ姫路駅前店には今回の張り紙はまだ掲出されていません。
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堀田 周郎

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